大会長挨拶
第36回日本バイオマテリアル学会大会
大会長 石原 一彦
(東京大学大学院工学系研究科)
バイオマテリアルはこれまで既存の材料科学を基盤として、材料の成型加工技術、解析・評価技術を開拓しながら、医療デバイス・人工臓器という形で医療分野に活用されてきました。優れた材料設計概念の提案、材料評価法や生物科学的試験法の確立、さらには臨床的な知見の提供はバイオマテリアル研究の大きな社会貢献です。特に歯科、整形外科、循環器系内科、心臓血管外科、代謝系内科、眼科など多くの医療分野において、日本発のバイオマテリアル技術が世界を先導していることは周知の事実です。このような歴史の中で、日本バイオマテリアル学会の果たした役割は極めて大きいと言えます。
21世紀になり、遺伝子操作や細胞操作が一般に行えるようになってきており、その流れは組織再生医療へと向かってきています。また、社会的な大きな流れとして動物実験を極力行わないようにして、安全性確認や機能評価を成し遂げないとならないようになり、これを細胞・組織に代替させようということもなされてきています。これらの新しい流れの中にも、バイオマテリアル研究の成果が必要と考えられます。しかしながら、研究分野間の意識の違いが未だに存在し、研究者の情報発信・情報交換が不足していることを感じることもあります。
バイオマテリアル科学は、学術領域の複合・融合分野です。すなわち、既存の学術のみですべてを解釈することは不可能です。これからの時代は、バイオマテリアル科学を総合学術分野と認識し、各研究者が既存の学術的原点を離れて議論できる体制にしなければなりません。さらに、多くの大学にバイオ科学やバイオ工学が設置されてきており、研究所、官公庁、企業においても最新のバイオ系知識・技術、バイオ関連の統計・情報処理技術が重要となっています。総合学術としてのバイオマテリアル科学が必須となるでしょう。また、日本政府もバイオ産業を基幹産業の一つとして育てていこうとしています。
このような観点から、第36回日本バイオマテリアル学会大会は、大きく変革することといたしました。学会では、各年度の大会長に依存した運営体制を改め、学会自体が運営することとしました。これにより大会運営の負担を軽減できるとともに、研究者が研究動向を反映しやすくなります。また、日本バイオマテリアル学会がバイオマテリアル科学を創成するという使命を明確にすることができ、国内外の最新情報の研究者への提供、将来にわたる一連の情報の継承が可能となります。
第36回大会では“新時代のバイオマテリアル研究”と題し、総合学術としてのバイオマテリアル科学の創成を目指す第一歩と位置づけました。是非とも多くの方々にご参加いただき、“新時代”の扉を開け、その一歩を踏み出していただきたいと思います。