日本全身咬合学会理事長を拝命するにあたって

東北福祉大学 教授 渡邉 誠

 第22回一般社団法人日本全身咬合学会総会で、新しい理事・幹事のメンバーが選出承認され、同時に、本学会の設立当初から理事長職を務めてこられた石川達也先生が退任され、不肖私が理事長を拝命いたしました。光栄であると同時にその任の重さを今、痛感しております。

 本学会の目的は、咬合が全身の健康の維持と増進に寄与することを究明するとともに、関連する知識の交換、会員相互および内外の学会との連携、協力等を行うことにより、咬合学の進展、普及を図り、国民の健康、医療、福祉の向上に寄与することにあります。これまでも、石川先生のリーダーシップのもと、本学会の目的に賛同いただいた歯科医師を始め、医師、鍼灸師、柔道整復師、カイロプラクターなど多くの職種の方の活動と支援により、日本全身咬合学会は順調に発展してきたように思います。引き続き、専門学会としての基盤をさらに強固なものとするために、微力ではありますが、以下の課題に取り組んでいく所存です。

 1)学術集会・研究集会の活性化

 現在、全身の健康や疾病に関連する可能性のある咬合の研究や治療は、narrative based(物語り性依存)であることが多いために、集団で扱うことや疾患モデルを作成することが困難です。つまり、動物実験や疫学調査から有効な結果を得難いのが現状であろうと思います。しかしながら、一人の研究者、一人の臨床医としての個人レベルを超えて、学会として全身と咬合に関する症例のデータを蓄積することによって、新たな展望が拓けるのではないでしょうか。また、咬合を口腔内においてのみ捉える考え方から脱却し、咬合を全身において階層的に捉えることの必要性を広く知らしめることが重要と考えます。その過程では、会員諸兄の貴重な症例の提示と活発な意見交換が重要となりますので、学術・研究集会を研究発表の場に止めるのではなく、学会本来の姿である会員の意見交換の場をこそ充実させていきたいと考えております。他学会に所属する医療者・研究者が、全身と咬合に関する臨床症例や研究結果を発表する場としても本学術総会を整備していく必要があるものと考えております。

 2)エビデンスの発信・学会誌の質の向上

 本学会は、姿勢部会、聴力部会、頭痛部会、統合医療部会の4専門部会を有し、これらの専門部会は、それぞれの視点からエビデンスを発信してきました。また、会員各位もさまざまなメディアを通して日々の臨床・研究の成果を発信し続けています。これらの活動が有益であることは論を待ちませんが、本学会のプレゼンスの向上には、これらの成果が学会誌を通して発信されることが必須のものとなります。会員の学術集会での発表が自他ともに高く評価され、また、論文の学会誌掲載がその質の証明であると認識されるようになることを目指さなければなりません。関連する専門部会ならびに各委員会の協力のもと、精力的にこの問題に取り組み、学会誌の質の向上とエビデンスの効果的な発信を目標にします。

 3)社会に開かれた学会へ

 会員のみならず広く社会に開かれた学会を目指したいと思います。本学会の研究は、咬合が全身の健康の維持・増進に大きな示唆を与えており、関係団体も注目しています。故に「咬合から全身をみる」に止まらず「全身から咬合をみる」視点に立ち全身咬合学会を展開したい。

咬合に関連する歯科疾患、全身疾患の基礎的・臨床的所見に関する最新情報をすみやかに会員諸兄や社会に公表するとともに、臨床現場の医療職や患者・家族・支援者などの声にも耳を傾け、より良い医療の発展に貢献することが求められています。特に日本全身咬合学会学術大会あるいは専門部会で討議されております内容は、学会誌のみならずホームページ等を通じてお伝えしたい。そのためにも学会誌を滞りなく刊行していかなくてはなりません。また、会員の皆様からは是非とも忌憚のない意見をお寄せくださるようお願いいたします。

 これからの理事長として、全理事はもとより評議員の方々を中心に参加いただく各委員会での議論を仰ぎながら、本学会の発展に尽くしたいと考えております。会員諸氏のご協力を切に希望する次第であります。