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学会長挨拶

学会長 小林 清吾

第60回日本口腔衛生学会・総会
学会長 小林 清吾

第60回総会を、日本大学松戸歯学部で開催することとなりました。当学会の法人化に伴う関係から今までと異なる季節で、また約半年間の極めて短い準備での開催となります。例年にならって特別講演、シンポジウム、口演発表、ポスター発表、自由集会、市民フォーラムを準備しております。また、"8020財団とのコラボ・シンポジウム"を特別に企画しました。皆様におかれましては開催期日に充分ご留意され、この記念となる総会へのご参加を心よりお待ち申し上げます。

半世紀をさらに10年ほどを超えるこれまでの期間、本学会を舞台に数限りない研究課題が発表、議論され、業績はJournalとして記録蓄積されてきました。取り扱かわれてきた課題は基礎医学から臨床医学まで、さらに社会学を含めた地域現場で活用するための応用科学まで広範囲に及んでいます。節目のこの時期にあたり、当学会員に委ねられた研究課題、他学会との差別化をはかる特異な責任課題とは何かを改めて考えてみることはいかがでしょうか。本学会のキー・コンセプトは"歯科の公衆衛生"、すなわち"口腔疾患の第一次予防"と"地域歯科保健"ではないかと私は考えます。

今日、小児う蝕の確かな減少など、国民の健康を衛(まも)り増進することに少なからずの実績をみることができていると言えましょう。しかしそれでもなお、学童の疾病・異常の中でう蝕や歯周病の有病率はひときわ高く、また国民医療費 [2007(平成19)年] をみると歯科医療費が2兆4,996億円で、悪性新生物(2兆6,958億円)と同程度、脳血管疾患、虚血性心疾患など主要死因疾患を超える値を示しています。高齢社会が進行し、「延命の医学」から「QOL向上」が注目されている今日、口腔衛生の重要性は今後ますます大きくなっていくものと考えます。一部小児で示されてきた改善傾向を成人から高齢者に波及させ、「健康寿命の延長」と、またリスク条件を超えての「健康格差是正」など、挑戦すべき課題は続きます。

「健康寿命の延長」と「健康格差の是正」を課題としたとき、当学会が取りこぼしてきた重要課題の一つに"水道水のフロリデーション (Community Water Fluoridation) "を挙げるべきと考えます。65年前に米国で開始され、WHO、FDI、IADRをはじめとする150を超える世界の医歯学保健機関による推奨があり、調整によるフロリデーションだけでも世界31か国、4億人を超える人々に普及しているもので、韓国ではすでに30周年記念を迎えています。平成14(2002)年、当学会は声明文:"今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術支援"を公表し、本方法の有用性を示しています。しかし、今日わが国ではその施策を一例も実施できていない現実があり、これを直視しなければならないと思います。国の政策が不十分であるから、とか国民の要望が熟していないから、という理由を挙げることもできますが、その前にある学会の責任が全うされているとは言えません。フロリデーション実現のためには、健康科学のみならず、生活科学、環境科学、社会科学、集団心理学等にも関連した研究が要求されており、まだまだ手探りの状態であると思います。また、今回のメインテーマにおいて、「健康社会」作りに関わる科学は幅広く、「フロリデーション」は比較的優先して実施されるべき環境条件のひとつであって、口腔衛生学の真価はその後の展開にあると考えます。皆さまの幅広い科学分野からのご発表と、積極的な討議を期待致します。

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